幼児の言語教育、と聞くと小学校にあがる前の準備というイメージがあるかもしれません。
ひらがなを読めるようにしておく、自分の名前は書けるようにしておく、というように。
モンテッソーリの言語教育は、目的や方法が少しちがいます。
具体的にどんなものなのか、みていきましょう。
モンテッソーリ教育の5分野の「言語教育」
モンテッソーリ教育では、0〜3歳の時期に「体を自在に動かせる」「感覚を整理する」という土台を身につけ、子どもの興味に合わせてその後の知的教育に進んでいきます。
《モンテッソーリ教育の5分野》
日常生活の練習(運動の敏感期) | ||||
↓ | ||||
感覚教育(感覚の敏感期) | ||||
↓ | ↓ | ↓ | ||
知的教育 | ||||
言語教育 (言葉の敏感期) |
算数教育 (数の敏感期) |
文化教育 (文化の敏感期) |
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この部分 |
土台となる「日常生活の練習」「感覚教育」を経験し、言葉への興味が強くなってくると「言語教育」へ進んでいきます。
言語教育のもとになる「言葉の敏感期」とは
あることに強い興味をもって熱中する時期を「敏感期」と言います。
言語教育は「言葉の敏感期」がもとになっています。
言葉の敏感期は大きく2つの段階に分けれます。
- 話し言葉の敏感期
7ヶ月の胎児期〜3歳前後 - 文字に対する敏感期
3歳半〜5歳半
- 話し言葉の敏感期
赤ちゃんは、胎内にいるときから母親の心音や話し声に反応して聞いています。
誕生してからは話しかけるまわりの人たちの声に反応し、口元を見て、徐々に声を発し、言葉を話すようになります。
この時期、子どもが言葉を発していなくても、子どもに話しかけることがとても大切です。
子どもの内面では体験したことが蓄積され、それが少しずつ言葉に結びつき、「これは鼻と言うんだ」「これは抱っこと言うんだ」と理解していきます。
内面の変化は大きいのですが、子どもが言える言葉はほんの少しです。
このときにたくさん話しかけることで、自分の体験と言葉が結びつき、言える言葉が増えていきます。
反対に、言える言葉が少ないから話しかけない ということをしてしまうと、内面で蓄積した体験と言葉が結びつかなくなってしまい、ますます言える言葉が増えていきません。
子どもの応答は少なくても たくさん話しかけることで、突如として堰を切ったように話し始める話し言葉の爆発期がやってくるのです。
- 文字に対する敏感期
この敏感期はさらに2つに分けることができます。
- 書くことへの敏感期
- 読むことへの敏感期
話し言葉の敏感期を終えると、文字に対してごく自然に興味が出てきます。
その興味に合った教具に触れることで、子どもは集中現象を起こし成長していくのです。
モンテッソーリ「言語教育」の目的とは
モンテッソーリの言語教育の目的は「母語を正確に理解し、母語で表現する力を養う」ことです。
「母語で表現する」というのは、話し言葉だけでなく 文字で表現することも含まれます。
「自分で書けるようになりたい!読めるようになりたい!」という文字の敏感期に合った活動をすることで、子どもの成長欲求は大いに満たされます。
そして 文字を書けるようになった、読めるようになったということが 子どもの自信にもつながっていきます。
また、文字を理解すると これまで以上に新しい知識を吸収することができ、活動の幅が広がっていくのです。
モンテッソーリ「言語教育」の全体像とは
言葉の敏感期と言語教育の目的を理解した上で、言語教育の全体の流れをみていきましょう。
話し言葉 | |
語彙を豊かにする | |
・実物あわせ (実物と絵) ・絵カードあわせ ・言葉あそび ・絵本の読み聞かせ方 ・感覚教具の名称練習 |
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↓ | |
書き言葉 | |
書き方 | 読み方 |
●書き方の間接準備 ・音節あそび ●書き方への直接準備 ・メタルインセッツ ・砂文字板 ・絵カードあわせ ・文字ならべ ・単語ならべ ・文字探し・小さな黒板 ・なぞり文字 ・市松模様の紙 ●書き方の完成 ・清音・濁音・半濁音の紹介 ・特殊音節の紹介 |
●単語を読む ・物と名前カード ・小さいバスケットⅠ、Ⅱ ・小さい本Ⅰ、Ⅱ ・絵カードあわせ ●短文を読む ・小さい本Ⅲ ・赤いカードあそびⅠ、Ⅱ ●文章を読む ・絵本を読む ・科学的に分類された絵カード |
↓ | |
文法 | |
品詞の機能 | |
・名詞の役割とシンボル ・形容詞の役割とシンボル ・名詞と形容詞のカードあわせ ・形容詞のゲーム ・動詞の役割とシンボル ・名詞と動詞のカードあわせ ・助詞の役割とシンボル |
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↓ | |
文章構成 | |
主語と述語 | |
・主語・述語・目的語さがし ・文の分析 |
参考:松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月,P94-95
それぞれの活動についてみていきましょう。
《話し言葉の活動》
モンテッソーリの話し言葉の活動は、具体的には以下の内容です。
- 実物を五感で感じて、ものの名前を知る
- 動物、野菜など同じ分類の中で言葉を身につける
- カードや写真で抽象度を上げて言葉を身につける
こういった活動をするとき、感覚教育でも出てきたペアリング、グレーティング、ソーティングという方法で取り組みます。
この方法は、人間の発達に欠かせない「知性」を伸ばすものです。
モンテッソーリの言語教育では、言語の習得だけでなく、知性を伸ばしていけるように工夫がされているのです。
《書き言葉の活動》
書き言葉の活動は、大きく2つに分けられます。
- 「書き方」を身につける活動
- 「読み方」を身につける活動
3歳から4歳くらいに、文字に対して強い興味を示すのは自然なことです。
ただ、いくら文字に対して強い興味があっても、話し言葉とはちがって自然に身につくものではありません。
そこには教育の場が必要になります。
モンテッソーリ教育では、子どもに教え込むのではなく、いつのまにか知らず知らずのうちにできるようになっていくという方法をとります。
例として、「ひらがなを書く」に対するステップをみてみましょう。
- メタルインセッツ
鉛筆を正しく持ち、思いどおりに鉛筆を動かす練習 - 砂文字板
指でなぞり、書き順、書き方を習得する - 紙にひらがなを書く
いきなり ひらがなを教え込むのではなく、言語教具を使って少しずつ習得していきます。
《文法の活動》
幼児期の言語教育に「文法」が組み込まれているのは、モンテッソーリ教育の特徴の1つです。
これは活用を覚えさせる、というような早期教育をするものではありません。
「話す」→「書く」→「読む」ということができるようになった言葉を「文法」という新しい視点で考え、整理していくことが目的です。
いわば、言語教育の総まとめのような活動です。
「ものの名前を表す言葉=名詞」「動きを表す言葉=動詞」と理解すると、「ハサミ」という言葉に対して これは名詞である、という新しい見方をすることができます。
このようにして言葉に対する感性が育っていきます。
まとめ モンテッソーリの「言語教育」とは
モンテッソーリの言語教育は、子どもの興味に合わせて、言葉や文字で自己表現ができるようになることを目指した教育です。
これは子どもの自信にもつながり、その後の学びの意欲にもつながっていきます。
子どもの興味に合わせて環境を準備してみましょう。
言語教具を家庭ですべて揃えるのは難しいので、モンテッソーリ教室を利用したり、家庭で取り組む場合は一部を手づくりしたりすることもできます。
具体的な活動については、別の記事を参考にしてもらえると嬉しいです。
参考文献
この記事を書くために参考にした書籍などを記載しておきます。
相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月
相良敦子「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち」河出書房新社,2009年12月
相良敦子「モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」講談社,1985年6月
松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月
松浦公紀「0〜3歳のちから モンテッソーリ教育が見守る乳幼児の育ちと大人の心得」学研,2005年6月
松浦広紀 監修「モンテッソーリ教育に学ぶ子どもの見方」