モンテッソーリ教育

子どもの成長の土台となる|モンテッソーリ教育「日常生活の練習」とは?

子どもの成長に、親はいつも驚かされます。

生まれて1年ほどで ものをつかんだり、座ったり、歩いたりできるようになる。

そして2、3年もすれば 話すようになり、走ったり、細かい作業もできるようになる。

この大きく成長する幼児期の土台となるのがモンテッソーリ教育の「日常生活の練習」です。

 




モンテッソーリ教育の5分野の「日常生活の練習」

モンテッソーリ教育には5分野あり、その土台となるのが日常生活の練習です。

 

《モンテッソーリ教育の5分野》

日常生活の練習(運動の敏感期)
この部分
感覚教育(感覚の敏感期)
知的教育
言語教育
(言葉の敏感期)
算数教育
(数の敏感期)
文化教育
(文化の敏感期)

 

日常生活の練習のもとになる「運動の敏感期」とは

あることに強い興味をもって熱中する時期を「敏感期」と言います。

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日常生活の練習は「運動の敏感期」がもとになっています。

運動の敏感期は幼児期全般のものですが、大きく2つの時期に分けられます。

0歳〜2歳前半

運動そのものを身につける時期

歩く、立つ、座る、運ぶ、など

2歳前半/3歳〜

より細かい動きを身につけていく時期

折る、切る、縫う、書く、など

「運動の敏感期」に 子どもは ありとあらゆる動きを全力投球します。

これは 自分の思いどおり自由自在に体を動かせるように、一生懸命に習得しているのです。

たとえば 必死に階段をのぼったりおりたりするのは、本能的にいまその運動の習得が必要とわかっているからです。

大人が “ たいへんそうだな ” と思うことも、子どもは苦しみながらではなく 嬉々として体を必死に動かし習得していきます。

ここで大切なのが 目に見えてあらわれる動きにだけ注目するのではなく、その動きにいたるまでの運動のメカニズムを理解することです。

《運動のメカニズム》

 




↗︎  ↘︎
感覚器官 運動器官
↑↑↑ ↓↓↓
  外的刺激 運動  

 

子どもの脳は 発達している途中です。

五感を刺激されて伝わった情報を 脳で理解するために 手足を動かします。

たとえば、『10』という数字を見て、大人は 頭の中で『10』という数字を理解できます。

子どもは 実際に10個のおはじきを数えたり 手で握ったりして、『10』という数字と具体的な数量を理解していきます。

子どもと大人の脳の状態は ちがう ということをしっかり理解して接することが大切です。

大人
  • 脳の段階で 理解できる
  • 抽象的なモノの捉え方ができる
子ども
  • 脳の段階ではなく 動きをともなって理解する
  • 具体的なモノで 理解できる

子どもは動きながら学ぶ

 

子どもにとって「動き」は学びに欠かせない要素です。

その動きを身につけていくのが「日常生活の練習」です

 

モンテッソーリ教育は、子どもと大人の脳がちがうことを前提として考えられています。

子どもが手や体を使って、脳を発達させていけるよう工夫されているのです。

「日常生活の練習」では 日常の動きの中の1つひとつを取り出して、子どもが理解できるような形で進めていきます。

それは 大人が中心となった日常生活の中では、子どもの動きは身につきにくいものだからです。

日常生活では 大人が使いやすいように効率最優先だったり、子どもには使いにくい大きさや形だったりします。

日常生活の練習で使う用具が 子どものサイズでできているのは、こういう理由があるからなのです。

 



日常生活の練習

では次に「日常生活の練習」について詳しくみていきましょう。

「日常生活の練習」の大きな目的

自分の思ったとおりに 体の各部分を動かせるようになること

||

運動の完成

これから進んでいく他の教育分野の土台になる動きを体得することが目的ということです。

間接的に 次のような目的もあります。

「日常生活の練習」の間接的な目的

  • さまざまな動きを まず先生の「提示」を見て 順序を理解する
  • 一生懸命やることで集中力が身についていく
  • 最後までやり遂げようとする意思力が養成されていく

 

「日常生活の練習」は 動きの対象によって 5つに分けられています。

「日常生活の練習」5分野

  1. 基本運動
  2. 環境への配慮
  3. 自己への配慮
  4. 社交的なふるまい
  5. 運動の調整

① 基本運動

その名のとおり基本となる運動のことです。

「日常生活の練習」では出発点となる活動です。

この活動での動きが その先の「感覚教育」や「算数教育」の動きにもつながっていきます。

「基本運動」の具体的な活動

座る、立つ、持つ、運ぶ、しぼる、巻く、つまむ、
あけ移し、落とす、通す、まわす、結ぶ、ハサミで切る、…

 

② 環境への配慮

子どもの身のまわりでの動きを獲得するための活動です。

「基本運動」がいくつか組み合わさって より複雑な動きになっています。

「環境への配慮」の具体的な活動

じゅうたんの巻き方・広げ方、道具の運び方・置き方、机の拭き方、

掃除の仕方、金属磨き、アイロンがけ、

食器洗い、野菜の皮むき、洗濯の仕方、

動植物の世話、食卓の準備、鏡磨き、花の水切り、…

 

③ 自己への配慮

自分自身を対象とした動きを獲得するための活動です。

「自己への配慮」の具体的な活動

鏡を見る、服を脱ぐ・着る、あくびをする、

靴を履く・脱ぐ、鼻をかむ、歯を磨く、

手を洗う、髪を梳かす、着衣枠、

服のたたみ方、入浴の仕方、爪の切り方、…

 

④ 社交的なふるまい

社会生活上の約束やマナーのようなものを獲得するための活動です。

モンテッソーリは 子どもを1つの人格をもった存在であると 捉えていました。

その人格を傷つけないために「社交的なふるまい」の仕方を「日常生活の練習」の中に組み込んだのです。

「社交的なふるまい」の具体的な活動

挨拶の仕方、感謝とお詫びの仕方、

咳、くしゃみ、あくびの仕方、

先のとがったものの渡し方、戸の開閉の仕方、

教師との接し方、提示への参加の仕方、

お茶の出し方、外の遊具の使い方、

訪問の仕方、ノックの仕方、

トイレの使い方、交通ルール、…

 

⑤ 運動の調整

身についた運動を調整するための活動です。

「運動の敏感期」で爆発的に早く動きたい子どもが 自分をコントロールすること(自律)を身につけていきます。

意思力を育てることにもつながります。

たとえば 「静粛練習」では おしゃべりしたい気持ちをコントロールして まわりに耳をすまします。そして 自分の内面を見つめる活動です。

「運動の調整」の具体的な活動

線上歩行、静粛練習

 

日常生活の練習で使う「用具」

日常生活の練習で使われるものを「用具」といいます。

必ずこれを使わなければいけない、という決まりはありません。

子どもの興味に合わせ、ポイントをおさえて用具を準備しましょう。

「用具」のポイント
  • 子どもサイズであること
    大きさ、長さ、高さ、重さなど子どもが使いやすいものにします。
  • 本物であること
    使い方を誤ると手を切ったり割れてしまうからこそ、慎重な動きが身につきます。
  • 色や形が美しいこと
    子どもが思わず手を出したくなるような魅力的な色や形が必要です。
  • 清潔であること
    洗ったり、磨いたり、清潔に保つことができるものを準備します。
    汚れが目立ち、それに子どもが気づいてきれいにしたいと感じるようなものが必要です。
  • 日常生活で使っているもの
    日常生活の練習は最終的には実生活に還元されなければ意味がありません。
    そのためには、ふだん使っているものを使うことが重要です。

参考:松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月,P68-71

用具は子どもの手の届く棚に置きます。

あけ移しや穴落としなど 難易度が変化していくものは、簡単なものから難しいものへ、基本的には左から右に向かって並べるようにします。

また、日常生活の練習の5分野ごとにまとめて置くと、子どもは選びやすいです。

 



まとめ モンテッソーリの「日常生活の練習」

この記事では、「運動の敏感期」に連動した「日常生活の練習」についてまとめました。

運動の敏感期は、子どもが「動きを習得したい!」と意欲を燃やす時期です。

子どもが使いやすいようにポイントをおさえて、活動できる環境を用意しましょう。

具体的な活動については、別の記事を参考にしてもらえると嬉しいです。

参考文献

この記事を書くために参考にした書籍などを記載しておきます。

 

相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月

相良敦子「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち」河出書房新社,2009年12月

相良敦子「モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」講談社,1985年6月

松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月

松浦公紀「0〜3歳のちから モンテッソーリ教育が見守る乳幼児の育ちと大人の心得」学研,2005年6月

松浦広紀 監修「モンテッソーリ教育に学ぶ子どもの見方