子育てをしていると、子どもの吸収力に驚かされます。
「敏感期」とは、あるものに対して すさまじく吸収力を発揮する時期のことを言います。
子どもの興味や強いこだわりは、成長のサインです。
敏感期とはどんなものか、具体的にみていきましょう。
敏感期とは
敏感期は、発達にとって とても重要な要素です。
まず発達についてのモンテッソーリの考え方をみていきましょう。
《発達の4段階》
幼年期 | 児童期 | 思春期 | 青年期 | |||||||||||||||||
0 | 3 | 6 | 9 | 1 | 2 | 1 | 5 | 1 | 8 | 2 | 1 | 2 | 4 | |||||||
前期 | 後期 | 前期 | 後期 | 前期 | 後期 | 前期 | 後期 | |||||||||||||
第1段階 | 第2段階 | 第3段階 | 第4段階 | |||||||||||||||||
変容期 | 安定期 | 変容期 | 安定期 |
モンテッソーリ教育では「人間は24歳で発達を遂げる」と考えています。
発達は連続していくもので、基礎の第1段階がとても重要です。
この基礎の時期の発達に欠かせないのが「敏感期」です。
敏感期とは?
子どもがある能力を身につけるために、外界のあるものに特に敏感になり、子ども自ら主体的に働きかける、ある一定の時期のこと。
敏感期はもともと、生物学者のド・フリース(1848〜1935)が発見したものです。
すべての生物は幼少期に、自分の将来に必要なことのために、あることへの感受性が非常に敏感になり、それを環境の中に見つけだし、強烈にかかわっていく特別の短い時期がある。
相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月,P.56
例えば、蝶の幼虫は生まれてすぐ 光に対して強い感受性を示します。
生まれたばかりで噛む力が弱く、柔らかい葉しか食べられないからです。
そのため、太陽の光に強く反応して、枝の先にある柔らかい葉を求めて動きます。
しかし、大きくなってくると噛む力が強くなり 柔らかい葉を食べる必要がなくなるので、光への反応は弱まります。
この発見を受けて、モンテッソーリは人間の幼児期にも同じことが起こるのか観察しました。
その結果、人間にも他の生物と同じように強い感受性を発揮する時期があることを確認したのです。
これが敏感期です。
敏感期の吸収力は すさまじいものです。
ただ この時期を過ぎてしまうと吸収力が落ちてしまうので、この大事な時期を有効に使うことがとても重要です。
では、どんな敏感期があるのか、具体的にみていきましょう。
運動の敏感期
「運動の敏感期」は幼児期全般のものですが 大きく2つの時期に分けられます。
運動そのものを身につける時期
歩く、立つ、座る、運ぶ、など
より細かい動きを身につけていく時期
折る、切る、縫う、書く、など
「運動の敏感期」に 子どもは ありとあらゆる動きを全力投球します。
これは 自分の思いどおり自由自在に体を動かせるように、一生懸命に習得しているのです。
たとえば 必死に階段をのぼったりおりたりするのは、本能的にいまその運動の習得が必要とわかっているからです。
大人が “ たいへんそうだな ” と思うことも、子どもは苦しみながらではなく 嬉々として体を必死に動かし習得していきます。
ここで大切なのが 目に見えてあらわれる動きにだけ注目するのではなく、その動きにいたるまでの運動のメカニズムを理解することです。
《運動のメカニズム》
脳 | ||||
↗︎ | ↘︎ | |||
感覚器官 | 運動器官 | |||
↑↑↑ | ↓↓↓ | |||
外的刺激 | 運動 |
子どもの脳は 発達している途中です。
五感を刺激されて伝わった情報を 脳で理解するために 手足を動かします。
たとえば、『10』という数字を見て、大人は 頭の中で『10』という数字を理解できます。
子どもは 実際に10個のおはじきを数えたり 手で握ったりして、『10』という数字と具体的な数量を理解していきます。
子どもと大人の脳の状態は ちがう ということをしっかり理解して接することが大切です。
- 脳の段階で 理解できる
- 抽象的なモノの捉え方ができる
- 脳の段階ではなく 動きをともなって理解する
- 具体的なモノで 理解できる
子どもは動きながら学ぶ
子どもにとって「動き」は学びに欠かせない要素なのです。
運動の敏感期をもとにした日常生活の練習については、ぜひこちらをご覧ください。
秩序の敏感期
子どもと大人のちがいをよく実感できるのが、秩序の敏感期です。
「秩序の敏感期」とは 順番・場所・所有物・習慣などに非常にこだわる時期のことです。
《順番》
・お風呂で決まった順番に洗ってもらえないと怒る
《場所》
・食卓でいつも座る場所に違う人が座ると怒る
・大好きなぬいぐるみがいつもの場所にないと怒る
《所有物》
・自分のお手拭きタオルをお兄ちゃんが使っていると怒る
・お父さんがいつも使っているコップをお母さんが使うと怒る
《習慣》
・保育園に行くときに必ず家の前の溝に小石を10個以上落としてから出発する。急いでいてそれができないと大泣きする。
わが家の実体験も含めて書きましたが、思い当たることはありませんか?
自分のこだわっていることができないと、子どもはものすごく怒ります。
大人にとってはどうでもいいことに、子どもが強いこだわりを見せるのが秩序の敏感期です。
子どものこだわりと大人の日常生活がぶつかって、親としては苦労する時期でもあります。
この時期について、モンテッソーリは「秩序は善そのものではないが、必ず善へと向かう」と述べています。
つまり、成長へとつながっていく行為である、ということです。
この秩序の敏感期に、大人ができることは2つです。
- 子どもが成長する上で必要な1つの段階として受け入れる
- 子どもが「いつもどおり」のことをできるようにする
子どもの「敏感期」を知ることで、大人の心がまえと対応が変わります。
そして 敏感期という成長欲求を満たせると、子どもは落ち着いていくのです。
小さいものへの敏感期
大人が気にもとめない小さなものに、子どもは強い興味をもちます。
アリ、葉のうらの蝶の卵、服の裾の小さなほつれ、床の小さなほこり、など。
子どもが自分のまわりの世界に興味をもち、よく見ているということです。
感覚の敏感期
感覚の敏感期とは、感覚器官(目、耳、鼻、皮膚、舌)を刺激するものに対して強い興味を抱く時期のことです。
時期によって大きく2つに分けられます。
- 感覚の探究、感覚情報の蓄積 : 0歳〜3歳
- 感覚情報の整理、分類、秩序化 : 3歳〜6歳
0歳〜3歳の時期は、まわりにあるものが何であるか分からずに吸収します。
見たもの、匂いをかいだもの、食べた味、聞いた音、触れた感触、あらゆる感覚情報を内面に蓄積していく敏感期です。
3歳〜6歳の時期は、それまで蓄積した感覚情報を整理し、分類し、秩序化し、頭の引き出しに整然としまっていく敏感期です。
このときに感覚教具が大きな役割を果たすことになります。
0歳〜3歳 (幼児前期) 感覚情報を蓄積 |
→ | 3歳〜6歳 (幼児後期) 感覚情報を整理 |
視覚: 赤い 聴覚: 噛むとシャリシャリする 嗅覚: いい香り 味覚: 甘い 触覚: 表面がツルツルしている |
これは「りんご」だ ・果物という分類 ・いちごより大きい ・いちごより重い |
感覚の敏感期をもとにした感覚教育については、こちらをぜひご覧ください。
言葉の敏感期
言葉の敏感期は大きく2つの段階に分けれます。
- 話し言葉の敏感期
7ヶ月の胎児期〜3歳前後 - 文字に対する敏感期
3歳半〜5歳半
- 話し言葉の敏感期
赤ちゃんは、胎内にいるときから母親の心音や話し声に反応して聞いています。
誕生してからは話しかけるまわりの人たちの声に反応し、口元を見て、徐々に声を発し、言葉を話すようになります。
この時期、子どもが言葉を発していなくても、子どもに話しかけることがとても大切です。
子どもの内面では体験したことが蓄積され、それが少しずつ言葉に結びつき、「これは鼻と言うんだ」「これは抱っこと言うんだ」と理解していきます。
内面の変化は大きいのですが、子どもが言える言葉はほんの少しです。
このときにたくさん話しかけることで、自分の体験と言葉が結びつき、言える言葉が増えていきます。
反対に、言える言葉が少ないから話しかけない ということをしてしまうと、内面で蓄積した体験と言葉が結びつかなくなってしまい、ますます言える言葉が増えていきません。
子どもの応答は少なくても たくさん話しかけることで、突如として堰を切ったように話し始める話し言葉の爆発期がやってくるのです。
- 文字に対する敏感期
この敏感期はさらに2つに分けることができます。
- 書くことへの敏感期
- 読むことへの敏感期
話し言葉の敏感期を終えると、文字に対してごく自然に興味が出てきます。
言葉の敏感期をもとにした言語教育については、こちらをぜひご覧ください。
数の敏感期
幼児期の後半になると、自然と数に興味をもつようになります。
子どもからの敏感期のサインは以下のようなものです。
- ケースに入ったビー玉が何個あるか知りたがる
- 今日が何月何日か知りたがる
- 身近な人が何歳か知りたがる
- お風呂で数を数え続ける
- 車のナンバープレートの数字を読みあげる
数の敏感期をもとにした算数教育については、こちらをぜひご覧ください。
文化の敏感期
「文化」という表現はモンテッソーリ教育独特のものです。
内容としては、言葉と数以外に対して出てくる興味をまとめて文化の敏感期としています。
例えば、動物、植物、昆虫、岩石、宇宙、世界の国々、時の流れなどです。
文化の敏感期をもとにした文化教育については、こちらをぜひご覧ください。
礼儀と作法の敏感期
人間は、礼儀と作法が生まれながらに身についているわけではありません。
まわりの人たちと接しているうちに学んでいくものです。
うまくコミュニケーションをとり、社会で生活していくための礼儀やマナーを吸収するための時期があります。
それが礼儀と作法の敏感期です。
敏感期とひもづくモンテッソーリ教育の5分野
8つの敏感期をご紹介しましたが、モンテッソーリ教育ではこの中の5つの敏感期をもとにした活動をしていきます。
- 運動の敏感期 ー 日常生活の練習
- 感覚の敏感期 ー 感覚教育
- 言語の敏感期 ー 言語教育
- 数の敏感期 ー 算数教育
- 文化の敏感期 ー 文化教育
モンテッソーリ教育の5分野について、まとめて掲載したページはこちらからご覧ください。
まとめ 敏感期とは
敏感期は子どもの吸収力が最大限に発揮される時期です。
何に対して特に敏感になるかは、個人によってちがいます。
子どもをよく観察して、敏感期を逃さずに、成長する力を発揮できるような環境を提供していきましょう。
参考文献
この記事を書くために参考にした書籍などを記載しておきます。
相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月
相良敦子「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち」河出書房新社,2009年12月
相良敦子「モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」講談社,1985年6月
松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月
松浦公紀「0〜3歳のちから モンテッソーリ教育が見守る乳幼児の育ちと大人の心得」学研,2005年6月
松浦広紀 監修「モンテッソーリ教育に学ぶ子どもの見方」