幼児の算数教育、と聞くと小学校にあがる前の準備というイメージがあるかもしれません。
数字を書けるようにしておく、たし算ひき算はできるようにしておく、というように。
モンテッソーリの算数教育は、目的や方法が少しちがいます。
具体的にどんなものなのか、みていきましょう。
モンテッソーリ教育の5分野の「算数教育」
モンテッソーリ教育では、0〜3歳の時期に「体を自在に動かせる」「感覚を整理する」という土台を身につけ、子どもの興味に合わせてその後の知的教育に進んでいきます。
《モンテッソーリ教育の5分野》
日常生活の練習(運動の敏感期) | ||||
↓ | ||||
感覚教育(感覚の敏感期) | ||||
↓ | ↓ | ↓ | ||
知的教育 | ||||
言語教育 (言葉の敏感期) |
算数教育 (数の敏感期) |
文化教育 (文化の敏感期) |
||
この部分 |
数字への興味が出てきたら、算数教育へと進みます。
これは、3歳になったら強制的に始める、というようなものではありません。
子どもの興味に合わせて環境を提供していきます。
算数教育のもとになる「数の敏感期」とは
あることに強い興味をもって熱中する時期を「敏感期」と言います。
算数教育は「数の敏感期」がもとになっています。
幼児期の後半になると、子どもは自然と数に興味をもつようになるものです。
数の敏感期とは、具体的にどんな行動がみられるのでしょうか。
子どもからの敏感期のサインをみてみましょう。
- ケースに入ったビー玉が何個あるか知りたがる
- 今日が何月何日か知りたがる
- 身近な人が何歳か知りたがる
- お風呂で数を数え続ける
- 車のナンバープレートの数字を読みあげる
このような数に対する興味をキャッチしたら、算数教育の活動に誘ってみましょう。
モンテッソーリ「算数教育」の目的とは
モンテッソーリの算数教育の目的は、大きく3つあります。
- 子どもの中にある漠然とした数の情報を整理する
例:「3つのビーズ」と「3という数字」と「サンという言葉」を一致させる
- 論理的に数という概念を理解する
例:1000という数は100が10集まったものである
- 算数を体系的に学ぶ
「100まで数えられる」「かけ算やわり算ができる」という、短期的なことが目的ではありません。
その前提となる「数に対しての感性」を鍛えていくことが目的です。
モンテッソーリの算数教育では、「どういう法則性があるのか」「1億とはこれくらいの量である」というようなことを体感して理解していきます。
その中で、かけ算やわり算が手段として出てくるということです。
モンテッソーリ「算数教育」の特徴とは
モンテッソーリの算数教育の特徴は大きく2つあります。
- 感覚教育からの連続性
- 数の概念を身につける
順番にみていきましょう。
- 感覚教育からの連続性
モンテッソーリの算数教育は、感覚教育を土台としています。
具体的には、
- 感覚教育のペアリング、グレーティング、ソーティングが算数教育へ発展していく
- 感覚教具には数量概念が含まれている
ということです。
まず、感覚教育の「ペアリング、グレーティング、ソーティング」がどう算数教育へ発展していくのかみていきましょう。
【ペアリング】
感覚教育 | → | 算数教育 |
まったく同じものを「対」にする | 見た目はちがっても意味が同じものを「対」にする 3個のビーズと「3」の数字カード |
【グレーティング】
感覚教育 | → | 算数教育 |
段階づける 長い順に並べる、この中で1番長い、1番短い |
段階づけに数値をつける これはこれよりも1つ大きい、この中で1番大きい数 |
【ソーティング】
感覚教育 | → | 算数教育 |
分類する いくつかの図形の中から三角形と四角形を分ける |
集合の考え方 同じ位の数を集める、全体と部分の関係を考える |
このように感覚教具の基本的な使い方が 算数教育へ発展していくのです。
次に、「感覚教具に数量概念が含まれる」ということについてみていきましょう。
視覚三教具といわれる教具を例とします。
これらの教具の大きさや太さ、長さは「1」や「2」といった数値にはなっていませんが、感覚的な量として子どもに伝わります。
含まれる数量概念 | |
ピンクタワー |
1番小さい立方体と1番大きい立方体の比率が1:1000 |
茶色の階段 |
1番細いものと1番太いものの比率が1:100 |
長さの棒(赤い棒) |
1番短い棒と1番長い棒との比率が1:10 |
画像引用元:「モンテママのたからもの」
これらの教具は意図的に、このあとに出会う算数教育の要素を取り入れています。
子どもは感覚教具に触れることで、無意識に数量の感覚を身につけ、自然と算数教育へと進んでいけるのです。
- 数の概念を身につける
モンテッソーリの算数教育では
- 数量: 10という量
- 数詞: 「じゅう」という言葉
- 数字: 「10」という記号
の3つを一致させていくことに重点が置かれています。
具体的には、10という量を自分で数えて用意することができる、10という数字や量を見て10と言うことができる、10と書くことができる、などということです。
順番としては、「数量→数詞→数字」の順で身につけていきます。
これは「具体から抽象へ」という流れです。
なぜ具体から始めるのかというと、子どもの脳は発達中だからです。
10個あるものを実際に触れて感じることで、「10」というものを理解していきます。
詳しくは「運動の敏感期」で説明していますので、ぜひご参考ください。
モンテッソーリ「算数教育」の全体像とは
モンテッソーリの算数教育は、どのように進めていくのでしょうか?
全体の流れについて、みていきましょう。
数量概念の基本練習 | ||
10までの量と数の理解、数量の数字認識 | ||
●算数棒 ●砂数字板 ●算数棒と数字カード ●錐形棒 ●0あそび(数取りゲーム) ●数字と玉 ●算数棒による数の合成分解 ●色ビーズ並べ |
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↓ | ||
十進法Ⅰ | ||
十進法の基本的構成の認識 | ||
●1、10、100、1000の紹介 ●1000の配列と構成 |
||
↓ | ↘︎ | |
十進法Ⅱ | 連続数の呼称と配列 | |
十進法による加減乗除の概念 | 連続数としての数の認識 | |
●両替あそび ●たし算 ●かけ算 ●ひき算 ●わり算 |
●セガン板 ○Ⅰ:11〜19までの数を数える ○Ⅱ:11〜99までの数を数える ●数字の配列 ○数字の消却 ○数字の埋め込み ○数字並べ ●100の鎖(短い鎖) ●1000の鎖(長い鎖) |
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↓ | ||
十進法Ⅱとの並行練習 |
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加減乗除の強化練習 |
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●数字の配列 ○たし算 ○かけ算 ○ひき算 ○わり算 ●ビーズフレーム(小) ○たし算 ○ひき算 ●へびあそび ○たし算・検算 ○ひき算・検算 ●色ビーズ ○かけ算 |
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↓ | ||
記憶による加法・減法・乗法・除法 | ||
記憶を伴う加減乗除の強化練習 | ||
●たし算板 ○たし算暗算板・問題カード ○たし算埋め込み暗算板 ●かけ算板 ○かけ算暗算板・問題カード ○かけ算埋め込み暗算板 ●ひき算板 ○ひき算暗算板・問題カード ○ひき算埋め込み暗算板 ●わり算板 ○わり算暗算板・問題カード ○わり算埋め込み暗算板 |
参考:松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月,P.108-109
前述したように、モンテッソーリの算数教育は「具体から抽象へ」と進めていきます。
まずは さまざまな教具を通して「数量」「数詞」「数字」を一致させ、0〜10の概念を身につけます。
次に十進法という数の世界の規則を理解します。
十進法を理解すると、1億のような大きな数でもイメージできるようになっていきます。
このあとに加減乗除の演算(たし算など)に進みます。
モンテッソーリ教育では「たし算→かけ算→ひき算→わり算」という順に身につけていきます。
「かけ算は たし算の特別なもの」と捉えていて、たし算の発展形として伝えるほうが子どもは理解しやすいからです。
かけ算とたし算がどう関連づいているかというと、「同じ数を何回もたすことが かけ算」ということです。
- 111 + 111 + 111 = 333
- 111 × 3 = 333
このように前段階で身につけた知識と関連づけて、演算を理解していきます。
まとめ モンテッソーリの「算数教育」とは
モンテッソーリの算数教育は、それまでに経験した日常生活の練習と感覚教育を土台として、発展させていく知的教育です。
具体的なものに触れながら、算数の基本的な要素を身につけていきます。
この基本的な力は、その後の学びの基礎となります。
子どもの興味に合わせて環境を準備してみましょう。
算数教具を家庭ですべて揃えるのは難しいので、モンテッソーリ教室を利用したり、家庭で取り組む場合は一部を手づくりしたりすることもできます。
具体的な活動については、別の記事を参考にしてもらえると嬉しいです。
参考文献
この記事を書くために参考にした書籍などを記載しておきます。
相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月
相良敦子「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち」河出書房新社,2009年12月
相良敦子「モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」講談社,1985年6月
松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月
松浦公紀「0〜3歳のちから モンテッソーリ教育が見守る乳幼児の育ちと大人の心得」学研,2005年6月
松浦広紀 監修「モンテッソーリ教育に学ぶ子どもの見方」