「つまんで落とす」活動で指をしっかり動かせるようになったら、子どもの興味に合わせて「円柱さし」に誘ってみましょう。
モンテッソーリ教具「円柱さし」とは?
「円柱さし」は、モンテッソーリの感覚教育で使う教具の1つです。
感覚教具の中で、視覚に働きかける教具を「視覚教具」と言います。
円柱さしは、この視覚教具の中で最初に取り組むものです。
《視覚教具の流れ》
円柱さし |
ペアリング、グレーディングの基礎を習得 |
↓ |
色つき円柱 |
↓ |
ピンクタワー |
↓ |
茶色の階段 |
↓ |
長さの棒(赤い棒) |
「円柱さし」の特徴
円柱さしは、規則性のある木製円柱が10個、ピッタリはまるように設計されています。
大きな特徴は3つです。
- 親指、人さし指、中指の3本指を使う
円柱さしは、3本指で円柱をつまんでさし込みます。
この3本指の動きは「箸をもつ」「鉛筆をもつ」ための基礎になります。
- 自分で誤りに気づいて修正できる
ピッタリはまるので、自分でまちがいに気づくことができます。
高さは合っているが、太さがちがう | 太さは合っているが、高さがちがう |
自己訂正は、学ぶ上でとても大切な要素です。
- 算数の要素が取り入れられている
円柱さしは 数字について何も触れませんが、数の概念が含まれています。
- 円柱さし10個で1組になっている
算数教育の基本になるのが十進法です。
その前段階として「1〜10」という数に感覚的に触れ、親しむことを目指します。
- 大きさが一定の割合で変化していく
円柱さしは「だんだん小さくなる、だんだん低くなる、だんだん細くなる」というように規則性をもって変化します。
算数教育の基礎となる、量の変化を体感していくのです。
感覚的に数の概念に触れることで、この先の算数教育へスムーズに進んでいけるようになっています。
円柱さしは、全部で4種類あります。
- 円柱さしA
太さが同じで、左から順番に、高さが高いものから低いものへ10段階になっている。
- 円柱さしB
高さは同じだが、太さが左から右へ順番に、太いものから細いものへ10段階になっている。
- 円柱さしC
高さ・太さともに異なる。
左から「高くて太いもの」から「低くて細いもの」になっている。
- 円柱さしC’
高さ・太さともに異なる。
Cとは逆で、左から「太くて低いもの」から「高くて細いもの」になっている。
「円柱さし」の効果
効果は大きく3つあります。
- 観察力を鍛える
- 思考力を鍛える
- 学びの基礎となるペアリング、グレーディングを身につける
- 観察力を鍛える
円柱さしは「大きさの違い」「高さの違い」「太さの違い」を見分ける活動です。
よく観察して、違いを見分けて円柱をさし込みます。
この観察力は、このあとの知的教育でも重要な役割を果たします。
- 思考力を鍛える
「こっちのほうが高いかな」
「どっちのほうが太いんだろう?」
「さっきさし込んだ円柱の次に小さいのはどれだろう?」
子どもは試行錯誤しながら、円柱同士を見比べて考え、推理していきます。
これをくり返し取り組むことで思考力がつき、発達が進んでいくのです。
- 学びの基礎となるペアリング、グレーディングを身につける
ペアリング、グレーディングとは物事を整理する方法です。
- ペアリング
2つのものを比較し、サイズ、色、形、重さ、匂いなどが同じものをペアにする
(例)同じ色の板をペアにする、同じ三角形をペアにする、など
- グレーティング
3つ以上のものを比較し、サイズ、色、形、重さ、匂いなどを大小、強弱などで段階づける
(例)大きい立方体から小さい立方体へ並べる、同色系の色板を濃い色から薄い色へ並べる、など
発達中の子どもは、身のまわりのものを頭の中で整理できていない状態です。
教具をくり返し取り組むことで、整理する力がついていきます。
そして、整理することで物事の理解が進むのです。
大人も何か考えるとき、整理して理解を深めますよね。
ぐちゃぐちゃ | ||||
りんご | なす | くま | ||
いちご | キャベツ | とかげ | ||
りす | めだか | からす | ||
ダチョウ | へび | まぐろ | ||
↓ |
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整理すると理解できる | ||||
《食べもの》 りんご、いちご 《動物》 魚類: めだか、まぐろ 爬虫類: とかげ、へび 鳥類: からす、ダチョウ 哺乳類: くま、りす |
円柱さしは、この整理する力の基礎となるペアリング、グレーディングを習得していきます。
子どもからのサイン!「円柱さし」のはじめどき
はじめるタイミングは「敏感期」に合わせるのがポイントです。
円柱さしは視覚教具。
子どもの視覚がより研ぎ澄まされているときにはじめるのがおすすめです。
具体的な子どもからのサインはこんな感じ。
- 「つまんで落とす活動」を十分にやった
→ 指先を動かすのに慣れてきた - 見比べるようになってきた
(例)同じ大きさの積み木だけを集める、切り分けたケーキの大きい方を食べたがる、など
年齢でいうと、2歳半〜3歳ごろがはじめる目安です。
子どもの興味に合わせて、はじめてみましょう。
購入やレンタルもできる「円柱さし」
円柱さしは手づくりするのが難しい教具です。
おうちでやってみるなら、購入かレンタルがあります。
- 購入するなら
- レンタルするなら
「円柱さし」のお仕事
4種類の円柱さしを組み合わせた活動は、100通り以上になるそうです。
ここでは基本的なお仕事の進め方をご紹介します。
円柱さしのお仕事「ペアリング」
提示について詳しく知りたい方は、 こちらをぜひご覧ください。
最初の提示には、円柱さしBを使います。
- 円柱さしBをマットに置く
左側が大きい円柱になるように置きます。
数字表記と同じようにすることで、算数への導入もスムーズです。
- 円柱を順番に取り出し、バラバラに置く
台を手前に、円柱を奥に置きます。
3本指を使って「つまむ」動きをゆっくり見せます。
- 円柱をランダムに選んでさし込んでいく
下に落とさず、あまり大きな音を立てないようにします。
穴の大きさが合うか確認していく様子を見せます。
太さが合わない | 太さがピッタリ |
このようにランダムに選んでさし込んでいきます。
- 終わったら、片づける
提示のポイントは 3つあります。
- 1つひとつの動作をゆっくり(8倍スロー)
- 難しいところはくり返す
- 子どもが見ているか確認しながら進める
円柱さしの難しいポイントは、この2つです。
- 親指、人さし指、中指の3本の指でつまむ
- 円柱をまっすぐ枠にさし込む
子どもが苦戦していたら、一息ついたタイミングで 苦戦ポイントに絞ってゆっくり提示してみましょう。
ペアリングの基本操作に慣れてきたら、他の円柱さしでも取り組んでみます。
円柱さしのお仕事「グレーディング」
最初は、円柱さしCで提示をします。
- 円柱さしCをマットに置く
- 円柱を順番に取り出して、バラバラに置く
- 台はマットの横によける
- 左から大きい順に並べていく
ピッタリくっつけて並べます。
- 並べたら、いろんな方向から形を確認する
横から、上から、小さいほうから、どう見えるか確認します。
- 終わったら、片づける
慣れてきたら、他の円柱さしでも取り組んでみます。
円柱さしのお仕事「 ペアリングの発展」
4種類の円柱さしそれぞれの活動に慣れてきたら、円柱さしを組み合わせる活動もしてみましょう。
- 円柱さし2つ
- 円柱さし3つ
- 円柱さし4つ
この活動の進め方はいくつかあります。
- 自分で選んだ円柱が合う台を探す
自分にとって分かりやすい円柱を選ぶ傾向があります。
- 大人や年上の子どもが指定したところに合う円柱を探す
棒などで穴を指定して、その穴に合う円柱を探し出してさし込みます。
ランダムに指定することで難易度を調整でき、ゲーム性が上がります。
この複数の円柱さしを組み合わせて取り組むことで、子どもは自然と規則性に気付いていきます。
《まったく同じ大きさの円柱がある》
同じ大きさの円柱は5組あります。
発見したときは大喜びです。
まとめ モンテッソーリの「円柱さし」
「日常生活の練習」に取り組み、モンテッソーリの活動に親しんできたら「感覚教育」に進んでいきます。
感覚教育の最初に取り組むのが「円柱さし」です。
この先の学びにつながる基礎を身につけていく活動です。
円柱さしのあとは、「色つき円柱」に進んでいきます。