モンテッソーリ教育

五感をつかって脳を鍛える|モンテッソーリの「感覚教育」とは?

色に強い興味をもったり、遠くに聞こえる鳥の声に反応したり、子どもの五感が特に研ぎ澄まされる時期があります。

この五感が敏感な時期にはじめるのが、モンテッソーリ教育の「感覚教育」です。

感覚教育とは どういうものなのか、具体的にみていきましょう。

 




モンテッソーリ教育の5分野の「感覚教育」

モンテッソーリ教育には大きく5つの分野があり、感覚教育はその中の1つです。

「日常生活の練習」という土台が築かれると、次の段階である「感覚教育」へと進んでいきます。

《モンテッソーリ教育の5分野》

日常生活の練習(運動の敏感期)
感覚教育(感覚の敏感期)
  この部分  
知的教育
言語教育
(言葉の敏感期)
算数教育
(数の敏感期)
文化教育
(文化の敏感期)

 

感覚教育のもとになる「感覚の敏感期」とは

あることに強い興味をもって熱中する時期を「敏感期」と言います。

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感覚教育は「感覚の敏感期」がもとになっています。

感覚の敏感期とは、感覚器官(目、耳、鼻、皮膚、舌)を刺激するものに対して強い興味を抱く時期のことです。

時期によって大きく2つに分けられます。

  • 感覚の探究、感覚情報の蓄積  : 0歳〜3歳
  • 感覚情報の整理、分類、秩序化 : 3歳〜6歳

0歳〜3歳の時期は、まわりにあるものが何であるか分からずに吸収します。

見たもの、匂いをかいだもの、食べた味、聞いた音、触れた感触、あらゆる感覚情報を内面に蓄積していく敏感期です。

3歳〜6歳の時期は、それまで蓄積した感覚情報を整理し、分類し、秩序化し、頭の引き出しに整然としまっていく敏感期です。

このときに感覚教具が大きな役割を果たすことになります。

0歳〜3歳
(幼児前期)

感覚情報を蓄積
3歳〜6歳
(幼児後期)

感覚情報を整理
視覚: 赤い
聴覚: 噛むとシャリシャリする
嗅覚: いい香り
味覚: 甘い
触覚: 表面がツルツルしている
これは「りんご」だ
・果物という分類
・いちごより大きい
・いちごより重い

 

モンテッソーリ「感覚教育」の目的とは

モンテッソーリは「感覚教育はすべての教育の基礎である」と言い、感覚教育の重要性を強調しています。

知的教育を進めていくためには、感覚器官が十分に機能していなくてはならないからです。

見て正しく認識でき、聴くことができ、嗅ぐことができ、味わうことができ、皮膚で感じることができる、という五感がしっかり働いて、初めて外の情報を脳に取り入れることができます。

そしてその情報を解析し知識としていくのが知的教育です。

 

子どもの発達が連続しているように、モンテッソーリ教育の5分野も連続してつながっています。

モンテッソーリ教育には「鉤(かぎ)の手の原理」という考え方があり、感覚教育にはその後の知的教育(言語教育、算数教育、文化教育)につながる要素がたくさん含まれています。

例えば、感覚教具には数学的な要素が含まれています。

しかし、子どもには数学的なことは何も教えません。

子どもは感覚教具を使いながら数学的な要素を無意識に体感し、算数教具を使う際にスムーズに数と結びつけて知識をつけていきます。

 

感覚教育の目的
  • 感覚の敏感期に対応し、発達を遂げる
    無意識に吸収した感覚の情報を整理し、具体から抽象へ高めていく
  • 知的教育の基礎となる感覚器官を発達させる
    わずかな違いを感じ取れる教具に触れることで感覚器官が洗練される
  • 知的教育につながる要素を獲得する
    知性が覚醒され、整理や分類したり、法則的な考え方が身につく

 

 



 

五感を刺激する魅力的な「感覚教具」とは

感覚教育から導入されるのが「教具」です。

日常生活の練習で使う「用具」はポイントがあるだけで、決まったものを使わないといけない、ということはありません。

しかし、「感覚教具」はサイズや色、重さなどがはっきり決まっています。

種類も限られていて、日本モンテッソーリ教育綜合研究所では、21種類あるとされています。

刺激する
感覚器官
教具名 識別する内容

視覚

(目)

円柱さし 大小、高低、太細
ピンクタワー 大きさ(大小)
茶色の階段 太さ(太細)
長さの棒(赤い棒) 長さ(長短)
色つき円柱 円柱さしと同じ
色板Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ 色の種類、色の明暗(濃淡)
幾何たんす いろいろな平面図形
幾何学立体 基本的な幾何学立体
構成三角形 いろいろな三角形
二項式 色と大きさの要素の応用
三項式 色と大きさの要素の応用
触覚

(手、皮膚)

触覚板・布合わせ 手触り、粗さ滑らかさ
温覚筒 熱い、冷たい(温度感覚)
温覚板 熱い、冷たい(温度感覚)
重量板 軽重(重量感覚)
圧覚筒 圧力(反発力)の強弱
実体認識袋 物体の知覚(実体認識感覚)
聴覚
(耳)
雑音筒 音(雑音)の強弱
音感ベル 楽音の高低
味覚
(舌)
味覚びん 基本的な味の種類
嗅覚
(鼻)
嗅覚筒 いろいろな具体物の匂い

参考:松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月,P77

 

このように感覚教具は各感覚器官を個別に刺激するように作られています

どうしてたくさんの感覚を刺激しないようにしたのでしょうか。

それは、幼年期の前半で無意識に吸収された感覚の情報を整理するためです。

子どもの頭の中には、生まれてからずっと五感によって吸収した情報が蓄積されています。

感覚の情報は蓄積されているだけで、それが何なのかは分からず、分類されず混沌とした状態です。

感覚教具と触れ合うことで、赤色とはこんな色、三角形とはこんな形、バラの花はこんな匂い、と頭の中が整理されていきます。

 

では、感覚教具の基本的な使い方をみていきましょう。

この基本をおさえて感覚教具を使うことによって、子どもの知性が目覚め、感覚教育以降の知的教育(言語教育、算数教育、文化教育)へとつながっていきます

感覚教具の基本の使い方
  1. ペアリング
    2つのものを比較し、サイズ、色、形、重さ、匂いなどが同じものをペアにする
    (例)同じ色の板をペアにする、同じ三角形をペアにする、など
  2. グレーティング
    3つ以上のものを比較し、サイズ、色、形、重さ、匂いなどを大小、強弱などで段階づける
    (例)大きい立方体から小さい立方体へ並べる、同色系の色板を濃い色から薄い色へ並べる、など
  3. ソーティング
    3つ以上のものの中から、強さ、粗さなどを比較し、完全に同じもの同士を分類する
    (例)複数ある中から同じ立体を選び出す、複数ある中から同じ重さの板を選び出す、など

 

このほかにも感覚教具には いくつかの特性があります。

感覚教具の特性
  • 1つの要素だけを強調し、子どもが集中できるようにしている
  • 誤りを自分で訂正できる
  • 美しく作られている(色、形、材質、均整など)
  • 子どもに合うサイズで作られている

 



まとめ モンテッソーリの「感覚教育」とは

五感が敏感な時期に感覚を洗練させることで、そのあとに続く知的教育の土台となるのが感覚教育です。

子どもの興味に合わせて環境を準備してみましょう。

感覚教具を家庭ですべて揃えるのは難しいので、モンテッソーリ教室を利用したり、家庭で取り組む場合は一部を手づくりしたりすることもできます。

具体的な活動については、別の記事を参考にしてもらえると嬉しいです。

参考文献

この記事を書くために参考にした書籍などを記載しておきます。

 

相良敦子「お母さんの「敏感期」 モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる」文文藝春秋,1994年1月

相良敦子「モンテッソーリ教育を受けた子どもたち」河出書房新社,2009年12月

相良敦子「モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!」講談社,1985年6月

松浦公紀「モンテッソーリ教育が見守る子どもの学び」学研,2004年6月

松浦公紀「0〜3歳のちから モンテッソーリ教育が見守る乳幼児の育ちと大人の心得」学研,2005年6月

松浦広紀 監修「モンテッソーリ教育に学ぶ子どもの見方